こんにちは、デザイン顧問のMayuです。
TERAで顧問を務める杉山は、DTPが存在しない時代からデザイナーとして活躍し、TERAのゼネラルマネージャーとして刻々と変化するWebデザイン界を生きてきた、まさにナゴヤのデザイン生き字引。
TERACOYAでは、2010年に名古屋で行われたWebデザインイベントにて、杉山が発表したWebデザインセミナー「メディアと時を超えるデザインの本質」を全5回で紹介します。
第1回は、杉山のデザイナーマインドの基礎を築いた、下積み時代についてのお話です。WebどころかDTPすらなかった時代、デザイナーはどうやってスキルアップしていたのでしょうか?
Webデザインを始めたい方、デザイナーのマインドを知りたい方はぜひお読みください。
目次
ご挨拶
こんにちは、杉山充です。Webデザインからグラフィックデザイン、CI・VI、サインのデザイン、コピー、取材など…ひととおりなんでもやります。もちろんディレクション的なことから、お金の交渉までやっています。フィルムカメラが大好き。撮るよりむしろカメラが好きかもです。
このセミナーでは、私が今までに経験してきたことをベースとして、それらをWebデザインにどう生かせばよいかなど、デザイナー・クリエイターの考え方や見方、心意気をお話しします。
下積み現場は徒弟制度
私がデザイン業界に入ったころは、徒弟制度と言うには少し大げさかも知れませんが、職人的な風潮が色濃く残ってた時代でした。「技術は教わるのではなく盗め」を地で行く世界です。
とはいえ、私はずいぶん恵まれていたと思います。先輩はとても丁寧に教えてくれたし、何よりもそこで見るもの、聞くもの、すべてが面白くて魅力的でした。あれもしたい、これもしたいって、いつも思っていました。
小さな広告に何十案も絞り出す! でも小さいから面白い!
でも、入ったばかりの新人が、すぐに仕事を任せてもらえる、なんておいしい話はありません。アシスタントに始まり、そのうち部分的にデザインをさせてもらい、ようやく小さな新聞広告…突き出しとか記事中と言われるスペースですね…任せてもらえるようになる。そんなところから私のクリエイター人生はスタートしました。
記事中や突き出しは、小さくても自分の好きなようにデザインさせてもらえたので、とてもうれしかったです。名刺よりも小さなサイズの広告ですが、何十案もデザインを考えたものです。
版下と字詰め
初めて在籍したデザイン制作会社は、版下作成まで行う会社でした。
「版下」ご存知ですか? 今では現物を見ることはなくなりましたが、印刷する時の製版を行うための元になる原稿のことです。厚い紙に、写植(文字)、写真やイラストのアタリ(実際の原稿サイズの目安)などを貼り付け、その上に色指定が書かれたトレーシングペーパーを被せたら出来上がりです。簡単に書いていますが、とても繊細なものなんです。なにせ、これが基になって印刷物が作られるのですから。
私はデザイナーの仕事として、この版下を作る工程までやっていました。Webで言えば、コーディングまで担当するデザイナーですね。当時、さまざまな理由で「版下をやらない」会社やデザイナーもいましたが…でも私は版下を作る作業が好きでしたし、印刷物の大元を担っているのですから疎かにできませんでした。線一本へのこだわりを始めとして、納得するまでやりたいという気持ちが強かったのです。その当時は垂直や水平の、コンマ数ミリのわずかなズレも見分けることができました…今はどうでしょう、さすがに無理かな。
当時は、字詰めにかなりうるさかった時代です。私もタイトルからボディコピーまで、デザインのなかで文字を美しく見せることにこだわっていました。そのころは文字組が美しい広告が多く、例えば、キューピーマヨネーズの細谷巌と秋山晶のコンビネーションもそのひとつです。そんな大御所の仕事を憧れの眼差しで眺めつつ、タイトルや文字に可読性の高さはもちろん、その字面(じづら)の美しさも求めました。
当時の私は、文字列に凝縮感を持たせるのが好きでした、コピー部分をできるだけ一つの塊に見せたい、デザインの一要素として成立させたいという意識でしょうか。それが紙面の緊張感につながると考えていました。もちろん字間を広げた文字組みもあります。それは一文字一文字が独立したデザイン要素といえるでしょう。いずれにせよ文字をデザインに組み込んで、美しく見せるのは大きな課題でした。
しかし、代理店のディレクターに字詰めにものすごくこだわる人がいて、私が作ったデザインを自分で詰めなおしてしまうんです。でも、悔しいけれどそちらの仕上がりの方がいい。自分は自分で細心の注意を払って詰めたはずなのに、そのディレクターがささっと手を入れるとやっぱり違う。勉強になりましたね。
こだわりは写植を超える
版下に貼る文字は「写植」で打ち出します。コピー原稿に書体やサイズ、行間や字間、長体平体そして斜体などの変形を指定して写植屋さんに渡すと、印画紙にテキストを印字してくれるので、それを使って版下を作るわけです。
文字サイズは今みたいに自由自在ではありません。最小から最大まで数十種類のサイズしかないし、変形のバリエーションも決まっている。さらに、写植のレイアウトって歯車を動かして決めているので、いわゆる、1Q(大きさの単位)=1歯(歯車が1回に動く量)=0.25mmで決まっているから、融通がきかない。
そして打つ(写植は「打つ」って言います)人によって意識がずいぶん違い、なかなか自分が思うように上がってこないんですよ。Webデザインなら、h2やh3画像のタイトル画像の量産をお願いしたら、字間が詰まりすぎていたり、空きすぎていたりして、どうもイマイチだな、なんてちょっと困ったりしたことはありませんか? もちろん、うまい人はすごくシビアに字詰めしてくれるんですけど。なかなかそうでない人とか、きちんと詰めてあっても、やっぱり自分で直したい、とかあるんですよね。
だから、ピンセットとカッターを使って、12Q(8pt相当)ぐらいは当たり前で、時には8Q( 4pt相当)なんて大きさの写植も切り貼りしてました。今では笑い話ですが、写植文字がなくなった!と思って探したら、服にくっついていた、なんてことがよくありましたよ。
すべては紙面の緊張感のために
タイトルなんかは文字を1文字ずつ切り離しますし、「く」とか「し」なんてのは、ぎゅうぎゅうに詰めます。あと、ボディコピーの文末が揃っていないのがいやで、並んでいるボディコピー全ブロックの、行数からその終わりまできっちり揃った状態で並べたいので、本文をばらばらに切り離して並べ替えたなんてこともありました。これもすべて、紙面に緊張感を持たせたいから。とにかく、揃えられるところは全部揃えたい。って気持ちですね。
ピンセットとか先が分厚くて写植をつまみづらいので、やすりと砥石で薄く削って使っていました。まあ、字詰めも指示を出して他のスタッフにやってもらえば、それでよかったのでしょうけど。自分でできることはとことん自分でやりたいって。当時はものごとに貪欲だったですね。
最もよい状態は、自分の目で見極める
今もそうなんですけど、デザイン、クリエイティブに関わることなら、何をしていても楽しいんですね。線を一本引くことも、紙を一枚貼ることも。
カメラでもいろいろ、ピントとか露出とか、マニュアルで操作してその結果がどうなるか、一喜一憂したほうが面白さとしてはありますよね。それが決まったときの喜びってのは絶対あるし。そこを経験しているからこそ、分かることってある。私は写真も撮るんですけど、露出なんてオートにしたくないですもの。
今では字詰めもソフトウェアでできますね。かつては手でやってきたことをさらに細かく、拡大した画面を見ながらできるわけで、環境としてはめちゃくちゃやりやすい。
だからこそ…「く」や「し」、ちいさい「ツ」などを詰めるのは当たり前だけど、カタカナとひらがなと漢字がまざった文章、もっといえば、漢字の画数によるボリューム感の違いなんかも、ちゃんと見てほしいです。それによって前後の空きも違ってくるので。特にタイトルは、ざらっと単語ごと選択して一気に詰めるとか横着せずに、字と字の間にひとつひとつカーソルいれて手づめしてくださいね。
版下・写植制作は、ソフトウェアでの操作へ…デザインを行う手段は変化しました。しかし、最後に信じるべきは自分の目と判断です。それは昔も今も変わらない。くれぐれも、ソフトウェアにあらかじめ設定された詰めだけで満足しないように。自分の目で見て最もよい状態にすることを忘れないでください。
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「ええね!」する
名古屋を拠点としたWeb制作会社、株式会社テラ
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